2011/04/05

#79 日本・中国・韓国の学校体育の比較 (6)

日本・中国・韓国の学校体育の実態

中等教育期の学校の「体育の授業」についての回答者の考えを自由記述で求めたところ、3カ国で計982人からの回答を得ることができました。そして、記述内容を詳細に検討し「肯定的」「否定的」「実情」「問題点」「意見・提言」の5項目で整理・分類し、日本・中国・韓国の学校体育について比較し、留学生の大学入学以前の学校体育を通じた体育・スポーツ経験の実態把握を試みました。

①「肯定的」な記述
 肯定的記述の分類カテゴリー割合をもとに3カ国を比較すると、割合の多い項目は、日本は「楽しかった、好き、面白かった等(41.1%)」「良かった、充実、有意義等(19.8%)」「社会性(9.9%)」、中国は「良かった、充実、有意義等(36.7%)」「体力向上、健康づくり等(19.4%)」「楽しかった、好き、面白かった等(17.3%)」、韓国は「楽しかった、好き、面白かった等(40.7%)」「良かった、充実、有意義等(27.8%)」「大切、必要等(12.0%)」でした。また、中国の「息抜き、ストレス解消(9.2%)」は他の2国と異なる傾向でした。
 これらの結果から、日本の体育の授業は社会性を身につける場にもなっていること、中国では他の2国に比べ体育の授業の楽しさが欠けていること、中国では体育の授業が息抜きやストレス解消の機会になっていることなどが推察されます。

②「否定的」な記述
 否定的記述の分類カテゴリー割合をもとに3カ国を比較すると、日本は「面白くない、つまらない等(28.2%)」「苦痛、だるい等(20.5%)」「好きじゃない、嫌い等(15.4%)」、中国は「面白くない、つまらない等(62.9%)」「好きじゃない、嫌い等(11.4%)」「苦痛、だるい等(11.4%)」、韓国は「意味、意義がわからない等(28.8%)」「面白くない、つまらない等(19.7%)」でした。
 このように、中国では他の2国に比べ学校の体育授業に面白みや楽しさを感じられない傾向があること、韓国では他の2国に比べ学校における体育授業の意味や意義を感じられない傾向があることなどが推察されます。さらに、韓国では「時間の浪費、遊ぶ時間(9.1%)」のように他の2国には見られないコメントが分類されました。

③「実情」を示す記述
 3カ国の学校体育の実情を示す記述を分類した結果、中国及び韓国では、体育授業を他の勉強科目の授業に振り替えたり、受験準備等のための自習時間に充てている実情(日本0%、中国15.6%、韓国11.4%)が確認されました。また、中国は体育の授業時間を「自由時間・遊びの時間(28.1%)」として、すなわち勉強の疲れを癒す息抜きの時間として活用されていることが記述内容等から明らかになりました。韓国は高校(特に3年生)になると、大学受験準備のため「体育授業が少なくなったり、ほとんどなくなる(21.1%)」実情があることも明らかになりました。それに比べて、日本は突出した実情についての傾向はなく、体育授業が勉強や受験等の影響を受けたり、他の教科に比べて軽視されるような実情はほとんどないものと考えられます。

④「問題点」を示す記述
 3カ国の学校体育の問題点を示す記述を分類した結果、日本では「教師の資質等(22.9%)」「達成度、充実感等(16.7%)」「種目数、種目の偏り(12.5%)」、中国では「授業時間(36.2%)」「種目数、種目の偏り(21.3%)」「施設・設備・用具の乏しさ(12.8%)」、韓国では「授業時間(20.0%)」「指導方針、カリキュラム等(15.4%)」「重視していない(13.8%)」などの問題点があることが確認されました。その他、日本の「評価について(10.4%)」は他の2国ではほとんど見られず、逆に他の2国に見られる「施設・設備・用具の乏しさ(中国12.8%、韓国12.3%)」については日本ではまったく問題になっていませんでした。
 3カ国の学校体育の問題点を比較すると、日本では体育施設・設備・用具等及び授業時間についての不満はないが教師の資質や評価に不満を感じている傾向があり、それに対して、中国及び韓国では体育施設・設備・用具等の乏しさ及び授業時間の少なさに不満を感じている傾向があることが推察されます。さらに、韓国出身の留学生の記述から、韓国は体育を重視していないこと、また、体育のカリキュラムが体系化されていないこと、体育が非常に形式的であること等の詳細な問題点の指摘が何件か見られたように、韓国の学校体育については、他の2国に比べ授業方針、カリキュラム、体育授業の軽視などに対する不満があることが特徴的であると考えられます。

⑤「意見・提言」を示す記述
 3カ国ともに出身国の学校体育に対して「種目・時間増」「種目の採用」についての意見・提言の割合が高い傾向を示していました。3カ国の違いが見られたのは、日本の「楽しい、自由な授業(20.9%)」を求める意見・提言、中国の「不要論(13.6%)」が他の2国より多く見られたことでした。また、既述のように、韓国では勉強(受験)が優先され、体育授業は重視されていない実情にあるものの、韓国出身の留学生から「授業の進め方の工夫(12.7%)」「種目・時間増(21.1%)」「体育で学ぶべきもの(14.1%)」などの意見・提言が多くみられました。韓国において体育授業が形式的なものであったり、他の教科に振り替えられたりすることがあったとしても、韓国出身の留学生は必ずしも学校体育を否定しているわけではないことが窺えます。

次回は「まとめ」です! …つづく…

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